本当のバレンタイン

「はい、キルア」
 ある日、俺は、ゴンからプレゼントを貰った。
「ん・・・、何?」
 俺はわざとらしくゴンに聞いた。
 もちろん、それがバレンタインのチョコであるということなど百も承知だ。
そもそも、この俺が今日がバレンタインであることを忘れるはずなど絶対ないんだけど、なぜだかゴンから聞きたかったんだ。
俺へのバレンタインのチョコだって言葉を。そして、ゴンから言われるであろうあの言葉を。
「えっとね・・・、キルアにバレンタインのチョコレート。・・・迷惑だった?」
 ゴンは上目遣いで俺の事を見ながら恐る恐る聞いている。
(・・・うわ~・・、可愛いなぁ・・ゴン。俺がそんなこと思うはずないのにさぁ)
「ううん。嬉しいぜ、ゴン」
 俺がそう言うと、ゴンの表情がぱぁっと明るくなり、にっこりと笑った。
「本当!?よかったぁvv迷惑だって言われたらどうしようかと思ったよ~」
「俺がそんなこと言うはずないだろ?馬鹿だなぁ」
 俺はゴンの頬に手を当てながらそう言った。にこりとゴンに笑いかけるのも忘れずに。
「・・・で、俺にもう一個言うことあるだろ?」
 俺は本当に聞きたかった言葉をまだ聞いていないことに気づいてゴンに促した。
「え・・・?キルアに言わなくちゃいけないこと?」
 ゴンは、はてといった表情で俺を見つめている。そんな表情さえ、ゴンは可愛らしい。
でも、ここで俺に好きだって告白するのがバレンタインのセオリーだろぉぉ!??
なんで、そこで、はて?見たいな顔になるんだよ!
「・・・あるだろ?俺に伝えたいこと」
 心の中の葛藤を抑えつつも、もう一回ゴンに言ってみた。
「ん~と・・・、あ!ビスケ!」
 (は・・・・?ビスケ??)
 ゴンはそう叫ぶと、俺の所からビスケのところに移動し、あろうことか、バレンタインのチョコを渡したのだ。
(俺だけじゃないのかよ!!!っーか告白は!??)
「はい、チョコレート。あげるね」
「ありがと。でもゴン、あんた男の子なのにバレンタインのチョコあげてるの?」
 ビスケがゴンにそう聞くと、ゴンは胸をはって俺が予想だにしていなかった言葉を発したのだ。
「うん。バレンタインっていうのはお世話になった人にチョコを渡す日だって聞いたから。
だから、男の俺だってチョコ渡したっておかしくないでしょ?」
「・・・うん、まぁそうだわね」
 忘れてたぜ・・・。あいつが超絶的に世間に疎かったことを。
どうやら、バレンタインの義理チョコの意味だけ理解して、本当のバレンタインのことは全く理解してなかったんだ。だから、さっき俺が聞いたときもわからなかったのか!!!!
 ・・・ということは、ゴンの愛の告白聞けないってことかよ!!!!
 俺は一ヶ月も前から、楽しみにしてたのに・・・!!!!
・・・・・・・・・絶対あいつに本当のバレンタインがどういうものなのか教えてやる!!!!!
 俺は心の中でガッツポーズをとりながら決意していた。


 その日の夜。
 ビスケが寝息を立てているのを確認しつつ、ゴンの枕もとにひざまづき、ゴンにキスをした。
「・・・ん~・・?えええ!!?」
 ゴンが気づいて大きな声を出そうとしたので、ゴンの口に手を当てた。
「静かにしろよ。ビスケが目覚ますだろ?」
 俺がそう言うと、納得したのかゴンはこくりと首を縦に振った。
「・・・・キルア・・・、なんで・・・・・・・」
 今度は俺にしか聞こえないほど小さな声でゴンは俺に聞いた。
「・・・ゴンに本当のバレンタインの意味教えてやるよ。だから俺のプレゼント貰って?」
「本当のバレンタイン・・・・?」 
 俺がそう言うと、ゴンは分からないながらもこくりと首を縦に振ってくれた。
「そう・・じゃあ・・・」
 そう言うと俺は、ゴンの肩をトンと押してゴンを押し倒して首筋にキスをした。
「ん・・・?き・・・キルア何するんだよ????」
「だから、プレゼント」
「これのどこがプレゼントなんだよ~!!!」
 ゴンは覆い被さった俺の肩をぐいぐいと戻しながら叫んだ。
「だから、俺がバレンタインのプレゼントだぜ。遠慮せず貰ってv」
「うう~・・・なんでこれがバレンタインのプレゼントなんだよぉ。バレンタインはお世話になった人にチョコ渡す日だろぉ?」
 ゴンは俺から目をそらしながら、頬を染めて反論した。
「・・・違うな。バレンタインは好きなやつに愛を告白する日なんだぜ。だからこういうプレゼントもありだろ?」
 そう言った後に俺はゴンの耳元で小さく「好きだ」と囁き、もう一度ゴンにキスをした。
 するとますますゴンの顔が赤くなっていって可愛い・・・。
「真っ赤だな・・・。で、ゴン・・・。お前は?」
 俺はゴンの答えが早く聞きたくてゴンに答えを促した。
「うん・・・・。俺もキルアのこと好き・・・」
 ゴンはそう言うと、おずおずと俺に手を伸ばし軽くキスをしてくれたんだ。
「・・・ぷ。・・・・・・キルアだって真っ赤じゃない。」
「し・・仕方ないだろ」
 だって、そんなこと初めてだったから。俺からなんていっぱいあったけど、ゴンからなんて一度もなかったから。
やっぱり・・・、俺ってゴンには、ある意味かなわないかもしれない。
 ゴンの天然に振り回されて、振り回されて。
 でもそれを心地いいと思ってしまうなんて本当に末期だよな・・・俺。

END